新NISAが始まってから、日本で買える高配当ファンドが一気に増えました。選択肢が増えたのはありがたいのですが、「結局どれを買えばいいのか」がかえって分かりにくくなっています。
私が実際に積み立てている3本を比較します。最初は「設計思想が違うから、性格もはっきり違うはずだ」という前提で書き始めたのですが、月次レポートを開いて中身を確認したら、想定していた構図とかなり違っていました。その過程も含めて書きます。
3本の基本スペック
| 項目 | Tracers日経高配当50 | 楽天日本高配当株 | 楽天SCHD |
| 参照指数 | 日経平均高配当株50 | ダウ・ジョーンズ日本配当100(S&P) | ダウ・ジョーンズ米国配当100 |
| 投資先 | 日本株 | 日本株 | 米国株 |
| 指数の銘柄数 | 50 | 100 | 100 |
| 実際の組入数 | 50 | 75 | ― |
| 信託報酬(税込) | 0.10725% | 0.297% | 0.1238% |
| 決算 | 奇数月の各30日(年6回) | 3・6・9・12月の各25日 | 2・5・8・11月の各25日 |
| 設定日 | 2024年1月31日 | 2025年2月7日 | 2024年9月18日 |
| 私の積立額 | 1万円 | 4万円 | 7万円 |
出典:各ファンドの月次レポート(2026年6月30日現在)および交付目論見書
数値はいずれも2026年6月末時点の月次レポートによります。ここで早速ひとつ注意点があります。楽天日本高配当株は、参照指数の100銘柄をそのまま買うわけではありません。指数を「参照」して銘柄を選び、流動性などを勘案して組入比率を決める設計なので、実際の投資銘柄数は75銘柄です。
一般的な指数連動型のインデックスファンドとは異なり、参照指数をもとに運用会社が銘柄選定と組入比率の決定を行うため、アクティブ運用に近い性格を持つファンドと理解しておくとよさそうです。
Tracersの設計思想:利回りでウエートを決める
まず理解しておくべきなのは、日経平均高配当株50指数が「配当利回りウエート方式」を採用している点です。日経平均225銘柄の中から予想配当利回りの高い50銘柄を選び、その利回りの高さをもとに組入比率を決めます。
ただし純粋な利回りだけで決まるわけではありません。日本経済新聞社の算出要領によると、ウエートは「予想配当利回り × 流動性係数」で計算され、さらに1銘柄あたり5%という上限が設けられています。流動性係数は直近1年の1日平均売買代金から算出されるもので、極端に流動性の低い銘柄が重くなりすぎないための調整です。
それでも基本は利回りベースです。配当利回りは「1株配当÷株価」ですから、配当が変わらなければ株価が下がった銘柄ほど利回りが上がります。つまり、配当が変わらない場合、株価下落によって利回りが上昇した銘柄が、次の見直しで相対的に高いウエートになりやすい構造だということです。
優良株が指数から外れていく
この性質がはっきり表れるのが、年1回の定期見直しです。基準日は5月末、入れ替えは6月末に実施されます。
2025年6月の見直しでは、日本郵政・日産自動車・三菱UFJフィナンシャル・グループ・SOMPOホールディングス・東京海上ホールディングス・商船三井の6銘柄が除外されました。
このうち三菱UFJや東京海上は、増配していたにもかかわらず株価がそれ以上に上昇し、相対的に配当利回りが下がったことで上位50銘柄から外れています。「業績が良くて株価が上がった銘柄が、自動的に指数から外れる」という逆説的な動きです。
ただし除外理由を一律に「株価上昇」と説明するのは正確ではありません。日産自動車は無配転落による除外です。利回りが下がる理由には「株価が上がった」場合と「配当が減った」場合の両方があり、この指数はどちらも同じように扱います。
楽天日本高配当株の設計思想:財務で選ぶ
こちらはアプローチがまったく違います。
参照するのは「ダウ・ジョーンズ日本配当100インデックス(S&P)」。S&P日本500指数を母集団として、10年以上連続して配当を出している企業に絞り、流動性スクリーニングを通した上で、配当利回りが上位50%の銘柄を対象にします。
そこからさらに、フリーキャッシュフロー対総負債、ROE(自己資本利益率)、配当利回り、5年間の配当成長率という4つの指標を合成したスコアで上位100社を選定する、という設計です。
この選定方法、どこかで見たことがあると思ったら、楽天SCHDが参照する「ダウ・ジョーンズ米国配当100」とまったく同じでした。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスの公式メソドロジーを見ると、両指数は同一の「Dow Jones Dividend 100」シリーズに属していて、記述は「米国」か「日本」かという部分以外は一字一句同じです。
つまり楽天日本高配当株は、楽天SCHDと同じ「Dow Jones Dividend 100」シリーズの選定思想を、日本株向けに展開したファンドといえます。「日本版SCHD」と呼ばれるのには、それなりの根拠があるわけです。
ただし、両者は仕組みまで同じではありません。楽天SCHDは米国に上場するSCHDというETFそのものに投資する形をとりますが、楽天日本高配当株は指数を参照して自前で銘柄を選び、組入比率を決めます。選定思想は共通でも、指数との関係は別物です。
ここからが本題:ディフェンシブなのはどちらか
設計思想がここまで違うなら、中身も相当違うはずです。利回りだけで選ぶTracersは景気敏感セクターに偏り、財務健全性で選ぶ楽天日本はディフェンシブになる。私はそう予想していましたし、AIに質問したときの答えも同じでした。
「Tracersは銀行・保険・鉄鋼といった景気敏感セクターが上位を占めるため景気敏感度がやや高め、楽天日本高配当株はより分散的でディフェンシブ」という整理です。理屈としては筋が通っています。
ところが、実際の月次レポートを開いて業種構成を確認したら、様子が違いました。
| 順位 | Tracers日経高配当50 | 楽天日本高配当株 |
| 1位 | 輸送用機器 16.6% | 輸送用機器 14.2% |
| 2位 | 保険業 9.4% | 保険業 13.6% |
| 3位 | 建設業 7.4% | 建設業 11.4% |
| 上位3業種の合計 | 33.4% | 39.2% |
出典:各ファンドの月次レポート(2026年6月30日現在)
上位3業種の顔ぶれが、完全に同じでした。しかも集中度で見ると、Tracersが33.4%に対して楽天日本は39.2%。「より分散的」と思っていた楽天日本の方が、むしろ上位業種への集中が強いという結果です。
さらに、私が予想していた「Tracersは銀行が上位」という見立ても外れていました。Tracersの業種別構成では、銀行業は6.2%で7位。1位は輸送用機器で、組入トップは本田技研工業です。銀行の前に、医薬品(7.3%)や鉄鋼(7.1%)、海運(6.5%)が並んでいます。
なぜ設計が違うのに中身が似るのか
しばらく考えて、腑に落ちた説明はこうです。
そもそも日本株には「配当利回りが高く、時価総額も流動性も十分ある大型株」がそれほど多くありません。Tracersの母集団は日経平均225銘柄、楽天日本の母集団はS&P日本500。前者は後者にほぼ含まれます。
その限られたユニバースの中から「高配当」という条件で50〜100銘柄を選べば、選定方法が違っても顔ぶれはかなり重なります。トヨタやホンダのような輸送用機器、東京海上やSOMPOのような保険、大手建設、メガバンク、商社。日本の高配当株の話をすると、だいたい同じ名前が出てくるのはそのためです。
選定メソドロジーの違いは、確かに存在します。しかし日本株という狭い池の中では、その違いが業種構成レベルの差として現れにくい。これが今回の検証で分かったことでした。
裏を返せば、業種構成を見る限り、日本株の高配当ファンドを2本組み合わせることによる分散効果は限定的に見えます。ただし業種構成が似ていることと、値動きやリターンが似ることは別の話です。銘柄選定やウエート、入れ替えのタイミングが違えば、結果は変わり得ます。
それでも、私のポートフォリオで地域分散の役割を担っているのは、日本株2本の組み合わせではなく米国株の楽天SCHDだろう、とは考え直しました。
では、2本の違いはどこに出るのか
業種構成が似ているとして、では選定方法の違いはどこに現れるのか。おそらく「時間の経過」だと思います。
Tracersは年1回、利回りの高さだけで機械的に入れ替えます。株価が上がった銘柄は外れ、下がった銘柄が入る。短期的には割安な銘柄を拾える一方、業績が悪化して株価が下がっただけの銘柄も同じように組み入れます。
楽天日本は、10年以上の連続配当実績とROE・キャッシュフローのスクリーニングを通しています。財務や収益性の指標も選定に使われるため、株価が下落しただけの銘柄と、財務面でも問題を抱えている銘柄をある程度は区別できる設計になっています。
誤解のないように書いておくと、株価が下がったこと自体で除外されるわけではありません。市場全体の下落やセクターのバリュエーション変化、金利動向でも株価は動きます。あくまで財務指標が選定に影響するという話です。
この差は、ある年の業種構成のスナップショットには現れません。数年単位で入れ替えを繰り返した結果として、じわじわ出てくる種類の違いだと思います。両ファンドとも設定から日が浅く(Tracers2024年1月、楽天日本2025年2月)、それを検証できるだけの実績はまだありません。
コストは明確に違う
業種構成が似ていても、コストははっきり差があります。
Tracersの信託報酬は年率0.10725%。楽天日本高配当株は0.297%。比率にすると約36%で、3分の1強といったところです。長期保有では無視できない差になります。
ただしTracersには信託報酬とは別に、監査費用や指数使用料などの「その他の費用」が年率最大0.035%かかります。合計しても十分に低コストではありますが、0.10725%が総コストではない点は認識しておくべきです。
楽天SCHDについても補足しておきます。このファンドは米国ETF(SCHD)に投資する形なので、「ETFの経費率0.06%が別途かかって実質負担が重くなるのでは」と心配していました。ところが月次レポートを読むと、投資対象ETFで控除される報酬相当額は委託会社がファンドに充当する仕組みになっており、投資家が実質的に負担するのは年率0.1238%程度とのことでした。二重負担にはならない設計です。
分配月は「ほぼ毎月」にはならない
3本を組み合わせると分配月がうまく分散する、というのもよく言われる話です。実際に決算月を並べてみます。
| 月 | 決算があるファンド |
| 1月 | Tracers |
| 2月 | 楽天SCHD |
| 3月 | Tracers、楽天日本 |
| 4月 | なし |
| 5月 | Tracers、楽天SCHD |
| 6月 | 楽天日本 |
| 7月 | Tracers |
| 8月 | 楽天SCHD |
| 9月 | Tracers、楽天日本 |
| 10月 | なし |
| 11月 | Tracers、楽天SCHD |
| 12月 | 楽天日本 |
12か月のうち10か月に決算があり、4月と10月は空きます。「ほぼ毎月」というより「年10か月」が正確なところです。
さらに重要なのは、決算月だからといって必ず分配金が出るわけではないという点です。各ファンドの目論見書には、分配対象額が少額の場合などには分配を行わないことがあり、将来の分配金の支払いおよびその金額は保証されない旨が明記されています。カレンダー通りに毎月入金される前提で家計を組むのは危険です。
それでもTracersを持つ理由
ここまで書いてきて、「では月1万円のTracersは要らないのでは」と自分でも思いました。業種構成が楽天日本と似ているなら、分散効果は限定的です。
それでも積立を続けている理由は3つあります。
第一に、信託報酬0.10725%という低コストです。楽天日本の3分の1強で、同じような中身を持てるなら、コストが低い方を一定量持っておく意味はあります。
第二に、奇数月分配というスケジュールです。四半期決算型2本だけだと分配が集中しますが、Tracersを加えると受け取る月が増えます。配当を実感しながら続けるという、心理的な側面では効いています。
第三に、金額が月1万円と小さいことです。仮にこの判断が間違っていても、ポートフォリオ全体への影響は限定的です。「やめる理由もないが、増やす理由もない」というのが正直なところで、当面はこの水準で様子を見ます。
使い分けの結論(修正版)
検証前と検証後で、私の整理はこう変わりました。
| 検証前の理解 | 検証後の理解 | |
| 楽天日本高配当株 | 守りの土台(ディフェンシブ) | 日本の高配当の主軸。ただしTracersとの業種差は小さい |
| Tracers | 攻めの補完(景気敏感) | 低コストと分配月の補完。日本株としては楽天日本と近い |
| 楽天SCHD | 増配の成長エンジン | 増配エンジンかつ、実質的な分散の主役 |
最大の変更点は、楽天SCHDの位置づけです。日本株ファンドを2本組み合わせるより、異なる市場である米国株を組み入れる方が、投資地域を分散する効果が期待できます。積立額を7万円と最も厚くしているのは、結果的に理にかなっていたと考えています。
「同じ日本の高配当ファンドでも、設計思想が違えば中身も違うはずだ」という思い込みが、今回いちばん検証してよかった部分でした。
補足:買う前に知っておきたいこと
初心者の方向けに、3本に共通する注意点を簡潔に書いておきます。
分配金は「もらえるほど得」ではありません。分配金が支払われるとその分だけ基準価額が下がります。購入価額によっては分配金の一部が元本の払い戻し(特別分配金)に相当する場合もあります。資産を増やすことだけが目的なら、分配のないファンドの方が効率的なケースもあります。
楽天SCHDは為替ヘッジがありません。円高が進めば、米国株が値上がりしていても基準価額が下がることがあります。
3本とも設定から日が浅く、Tracersで2年半、楽天SCHDで2年弱、楽天日本に至っては1年半ほどの実績しかありません。長期のリターンやリスクを評価できる段階ではない点は念頭に置いてください。
なお3本ともNISAの成長投資枠が対象で、つみたて投資枠では買えません。
次回は、楽天SCHDと楽天VYMの「重複問題」について書きます。同じ米国高配当ファンドを2本持つ意味はあるのか、という話です。
※本記事のデータは2026年6月末時点の各ファンド月次レポートおよび指数算出要領によります。業種構成比は入れ替えや株価変動により変動します。投資判断はご自身の責任でお願いします。



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