「益出し」でYOCはどう変わるのか。税務上の利回りと実質利回りは違う

税金・制度

高配当株を長く持っていると、YOC(Yield on Cost=取得価額に対する配当利回り)という概念が効いてきます。

今回は少し上級者向けに、私が2026年の春に行った「益出し」という操作と、それがYOCの見え方をどう変えたのかを書きます。

そもそも損失を抱えていた

2026年の初め、私のポートフォリオにはまとまった含み損を抱えた銘柄がありました。回復の見込みが薄いと判断して売却したのですが、そこで譲渡損失が確定します。

上場株式等の譲渡損失は、同じ年の譲渡益と相殺できます。つまり「今年のうちに利益を出しておけば、その利益にかかる税金を消せる」という状態になったわけです。

この損失を活かす方法として実行したのが、益出しでした。

益出しとは何か

益出しとは、含み益のある株を一度売却して利益を確定させ、同じ株を買い戻す操作のことです。

買い戻すと取得価額が現在の株価まで上がり、将来この株を売るとき、譲渡益はその分だけ小さくなります。つまり、その分だけ将来払う税金も小さくなるということです。

ここで誤解しやすいのですが、これは税金が消えたわけではありません。本来は将来払うはずだった税金を、今年に前倒しで発生させただけです。

ではなぜやるのか。今年は損失があるからです。前倒しで発生させた利益を損失で相殺すれば、税金を払わずに取得価額だけを引き上げられます。将来の税金を、今年の損失で肩代わりさせる——これが益出しの正体です。

私は2026年の春に、三菱商事・三井住友フィナンシャルグループ・日本たばこ産業の3銘柄で益出しを行いました。

銘柄益出し前の取得価額益出し後の取得価額
三菱商事2,486円4,864円
三井住友フィナンシャルグループ4,040円5,512円
日本たばこ産業4,105円5,818円

重要:同じ日に買い戻してはいけない

実務上の注意点を先に書いておきます。ここを知らないと、益出しをしたつもりで何も起きていない、ということになります。

特定口座では、同一銘柄を同じ日のうちに売買した場合、約定の順番に関わらず「買いが先、売りが後」とみなされ、その日の取引全体を総平均法に準ずる方法で平均化します。つまり同日に買い戻すと、取得単価は想定通りにリセットされません。

取得価額を引き上げたいなら、売却した翌営業日以降に買い戻す必要があります。私は翌営業日の寄り付きで成行注文を入れる方法を取りました。

ただしこの方法にもリスクがあります。売却から買い戻しまでの間に株価が上昇すれば、安く売って高く買い戻す結果になります。大きく窓を開けて始まった日は目も当てられません。また株式の受渡はT+2なので、買付余力の扱いも事前に確認しておく必要があります。

この記事での「実質YOC」の定義

以降で使う言葉を先に定義しておきます。

一般的なYOCは「現在の年間配当 ÷ 取得価額」で計算します。この記事ではこれを「税務上のYOC」と呼びます。

これに対して、この記事で「実質YOC」と呼ぶのは「現在の年間配当 ÷ 実際に自分が負担した資金」です。これは一般的な定義ではなく、益出しという操作の影響を測るために私が使っている独自の指標です。読み進める際はこの前提でご覧ください。

また以下の数字は、益出しを行った2026年4月時点の各社の配当予想で計算しています。取得価額と配当の時点を揃えるためです。その後の変化については記事の後半で扱います。

益出しでYOCは下がる、はずだった

取得価額が上がるということは、YOCが下がるということです。当時の配当予想で計算すると、こうなりました。

銘柄当時の1株配当税務上のYOC
三菱商事110円2.26%
三井住友フィナンシャルグループ157円2.85%
日本たばこ産業242円4.16%

配当額は2026年4月時点の各社の会社予想によります

三菱商事のYOCは2.26%。楽天・高配当株式・日本ファンドの分配利回り約4.0%を大きく下回ります。三井住友フィナンシャルグループの2.85%も届いていません。

この数字だけを見れば、「この2銘柄を売ってファンドに乗り換えた方が良いのでは」という結論になりそうです。実際、私も一度はそう考えました。

しかし「実質的に投下した資金」は違う

ここで発想を変えてみます。

益出しをして買い戻したということは、私が実際にポケットから出したお金は、当初の取得価額のままではないか、ということです。

株価が2,486円から4,864円まで上がった分は、単に利益が乗っただけであって、新たに現金を投下したわけではありません。追加で出ていったお金は、益出しで確定した利益にかかる税金だけです。

三菱商事で計算してみます。

項目金額
当初取得価額2,486円
益出し時株価4,864円
含み益(1株あたり)2,378円
税金(20.315%)483円
実質投下資金(当初+税金)2,969円

この実質投下資金2,969円に対して年間配当110円ですから、実質YOCは3.70%になります。税務上の2.26%とは、かなり違う数字です。

さらに、損益通算で税金はゼロだった

そしてもうひとつ。冒頭に書いた通り、私が益出しを行った目的はそもそも損益通算のためでした。

益出しで確定した譲渡益と同額以上の損失があり、損益通算によってその譲渡益が全額相殺されたため、今回の益出しに対する税負担は実質ゼロになりました。

税金を払っていないということは、実質投下資金は当初取得価額そのままということになります。

銘柄税務上のYOC実質YOC(税金あり)実質YOC(損益通算で税金ゼロ)
三菱商事2.26%3.70%4.42%
三井住友フィナンシャルグループ2.85%3.62%3.89%
日本たばこ産業4.16%5.43%5.90%

2026年4月時点の配当予想による

三菱商事は2.26%から4.42%へ、日本たばこ産業は4.16%から5.90%へ。見え方がまったく変わりました。

ただし三井住友フィナンシャルグループは3.89%で、ファンドの約4.0%にわずかに届きません。この時点では「実質ベースでもファンドに負けている」という判定でした。

そして4か月後、増配で逆転した

ここからが今回いちばん面白かった部分です。

この記事を書くにあたって最新の配当予想を確認したところ、3銘柄とも増配していました。

銘柄4月時点8月時点増減
三菱商事110円125円+15円
三井住友フィナンシャルグループ157円180円+23円
日本たばこ産業242円272円+30円

三菱商事と三井住友フィナンシャルグループは2026年5月の決算発表で今期予想を引き上げ、日本たばこ産業は7月30日に242円から272円へ増額修正しています

これでYOCを計算し直すと、こうなります。

銘柄税務上のYOC実質YOC(損益通算で税金ゼロ)ファンド比
三菱商事2.57%5.03%上回る
三井住友フィナンシャルグループ3.27%4.46%上回る
日本たばこ産業4.68%6.63%上回る

2026年8月時点の配当予想による

4月時点では3.89%でファンドに届かなかった三井住友フィナンシャルグループが、4.46%まで上がって逆転しました。日本たばこ産業に至っては、益出し後の高い取得価額で計算する税務上のYOCですら4.68%となり、ファンドを上回っています。

たった4か月です。増配というのはこれだけ効くのかと、正直驚きました。

YOCは分母が固定されているので、増配がそのまま利回りの上昇になります。ファンドの分配利回りは基準価額が上がれば下がりますが、個別株のYOCは取得価額が変わらない限り上がり続ける。この非対称性が、長期保有の高配当株投資の本質なのだと実感しました。

その他の落とし穴

実務上の注意点をまとめておきます。

当然ながら、損益通算できる損失がそもそもなければ、将来の税負担をただ前倒しで支払うだけになります。税金として支払った資金を運用できなくなるので、その分の機会損失が発生します。

売買手数料とスプレッドも実質利回りを削ります。楽天証券のゼロコースでは、条件を満たせば国内株式の売買手数料は無料です。ただしSOR(Rクロスを含む)の利用に同意することが前提になります。また板の薄い銘柄では、買い戻し価格が不利になる可能性があります。

そしてNISA口座では、この手法は使えません。NISA口座内で生じた売却損は税務上「なかったもの」とみなされるため、他の口座の譲渡益や配当と損益通算することも、翌年以降に繰り越すこともできないからです。あくまで課税口座での話になります(私は特定口座を利用しています)。

なお税率の20.315%は、所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計です。このうち復興特別所得税は2037年12月31日までの時限措置なので、将来この税率は変わり得ます。

表面の数字だけで判断しない

この記事で一番言いたかったのは、「税務上のYOC」と「実際に投じた現金に対する利回り」は別物だ、ということです。

税務上のYOCだけを見て「割高な株を高値づかみしている」と判断するのは、少なくとも私のケースでは正しくありませんでした。

AIとのやり取りの中でも、この点は何度も往復がありました。最初は「三菱商事はYOCが低くファンドに劣る」という結論が出てきて、私が「益出ししてすぐ買い戻したのだから、実質の持ち出しは当初取得価額分では」と指摘して、ようやく正確な評価にたどり着いた形です。

また、公開前に別のAIでファクトチェックをかけたところ、「相殺に使った損失は将来の利益に使えたはずで、機会費用を無視している」という指摘を受けました。一瞬もっともらしく聞こえたのですが、よく考えると納得できません。譲渡損失の繰越は3年が上限で、毎年確定申告を続けなければ権利が消えます。将来来るかどうか分からない使いどころを待つより、確実に相殺できる利益がある年に使い切る方が合理的です。

AIの指摘が常に正しいわけではない、というのが今回の学びでした。反論して通ることもあれば、反論を受けても自分の判断が正しいこともある。結局は自分で考えるしかありません。

次回は、この考え方を全23銘柄に適用して、「NISAで高配当ファンドを積むなら日本の個別株は不要なのか」という問いを検証します。

免責事項

本記事は筆者個人の理解に基づく一般的な情報提供であり、特定個人に対する税務・投資助言ではありません。筆者は税理士・金融商品取引業者ではありません。

税制は改正される場合があり、記載の税率・配当額・制度内容は執筆時点(2026年8月)のものです。実際の取引や確定申告にあたっては、必ず国税庁のタックスアンサー等の一次情報をご確認のうえ、個別の判断は税理士・証券会社等の専門家にご相談ください。投資は自己責任でお願いします。

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